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ニッポンヴィジョンズ審査員特別賞受賞作品 日本零年三部作第二部、『DUAL CITY』の情報は→ http://ek-stase.under.jp

日本零年三部作、第一作『イリュミナシオン』予告編

野菊の如き君なりき(1955) /木下恵介-2

野菊の如き君なりき・1955・松竹/木下恵介監督

 

神のみわざ、木下恵介作品。

こんなに天命の様に映画を作る人とか、恩恵のように作られる映画があるのだなと思ってしまう。

人間が生まれ、映画が生まれた刹那のような時間の意味を知る気持ちだ。

 

この映画はメロドラマのジャンルになるけど、人間の比率が本当に小さい。

この映画は、当時ヒットもし、かろうじて人間レベルの正気を保っているけど、全然違う風にも見ることが出来ると思う。

正直、(私の意見では)「たまたま一瞬、映り込んでる」レベルで、映画の方は人間たちを認識し始めたと思う。

もう老い先短いだろうと思う男が、死ぬ前にもう一度来たかった、と故郷を訪れ、船に乗りながら回想する所から始まり、タイトルからして、何となくわかる筋書き(子供の頃の実らなかった恋)で、ドラマは終わった。

でもこの映画が見ていたのは、もっと膨大な時間を持ったもので、その中から、一瞬、スロットマシンが偶然並んだように、感情移入が置き、筋書きができた位の、始まりなのか終わりなのかわからない精神年齢を持った作品だと思う。

 

女の子(民子)に冷たくされた、男の子(政夫)が一人すね、誰もいない家の中で一人、障子戸を引いたり押したりする。

勿論映画はこの瞬間のふてくされた政夫も見ている・・・。

 

その後二人が畑で出会い、「じゃあ(一緒にいて)怒られたら、ぼくがわるいっていうよ」

「みんなが言うことなんて関係ないよ。何も悪いことなんてしていないんだもの。

ぼくたち子供の頃から一緒なんだもんね。仲良くしよう。」

とすぐに仲直りする瞬間も見ている

 

真っ赤に輝く夕焼けが、高い山のてっぺんにあるその畑で、並ぶ二人と同じ高さになった瞬間も、後ろで、遠くから見ている・・・。

 

あるとき、二人をからかう男の後ろの山並み、はるか彼方に、真昼の月が小さく浮かんでいる

 

 

離ればなれになる時に渡された、まさおからの手紙を皆に見つからないように明るい庭の影で隠れて読むたみのことも映画は知っている。

 

まさおがたみを野菊に例え、たみがまさおをりんどうの花にたとえた瞬間も覚えている。

 

『たみさんと一緒にいれば、神様に抱かれて雲に乗っているようだ』とまさおが言うのをそのまま受け止めている。

 

たみが結婚したと聞いたまさおが、「結婚したってたみさんはたみさんだ。何も変わらない」と校庭の木の下で言う時も、見ていた。

 

こういう風にして映画は介入せずに、ただただ見ている。 

たまたまきまぐれに、人間たちの一瞬の泣き笑いを見ている。

 

別の人間との結婚を説得され、民が泣き止むのを見る時の、残酷さや嫌悪は、捕まえられて抗っていた天使が、ついに翼をもがれ、一切を諦め全く違う何かになったその一瞬の有様と自覚を見たことから生まれるのだろうか。

このあと民子はなかなか二階から降りてこない。

映画も民子の顔を直視できない。

 

この一瞬の暗い重苦しさは、それまでの牧歌的な情景とうって変わり、どんなドロドロした死や暴力をテーマにした映画の中にもないような、ゾッとした気持ちを生じさせる。

どんな意味であれ、自分の中で守って来た純粋さが滅び、楽園から追い出された変化を、しっかりと見てしまったのだ。

 

木下恵介の放任主義的な映画世界の中では、そうして、報われない魂が沢山生まれるけれど、恨んだりせず、これが自分の人生だと思っている節がある。

二十四の瞳』の、「先生、何もできないけど、一緒に泣いてあげる」という台詞、文字で見た時はふざけるなと思っていたけど、映画で見て、すごく感じるものがあった。

本当に何もできないけれど、相手に何かをしたい時、それしか無いのだと今はわかるし、また、一緒に泣くということが、人を癒すことで、全く無力なことではないともわかった。というか、それしか出来ない大きなことが、起こりうるのだと知ったという方が正しいのか。(実際先生はお弁当箱が欲しい子に、買ってあげたりしてるし、誠実に授業する中で赤と言われ、教師なんかやだと思って辞めたりしてる、勇敢な人。)

 

 

かなり徒然になってしまったが、木下恵介の捉え方にはとても共感する。

こんなに大きく、こんなに何気なく、人間と、気づかないだけで人間と共にあるすべてを見せてくれる人はいないという意味で、世界一、映画の歴史の中でも一番目に思い出される映画監督に感じられる。

 

インディア・ソングにちょっと似てるんだよなー。自分の好きな感覚の中の一番不可視に近い層な部分が。でもインディア・ソングはもっと壊しているけど、この人の映画の母体の意識は非常にゆるやかで包容力がある

 

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